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手をつなごう『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 -永遠と自動手記人形-』

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原作未読。アニメは見ています。

元々アニメがめちゃくちゃ面白くて良く出来てて劇場版も決まってるという作品なんですが、劇場版公開前にまさかの外伝!

しかも評判がとんでもなく上々でアニメ未見の人も褒めてるなんて只事じゃあないと思って滑り込みで観てきました!

 

 


『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』予告

 

 

まずヴァイオレットの声を聴いた瞬間に「あぁ、今映画館でヴァイオレット・エヴァーガーデン(以下VE)を観ているんだな…」という多幸感に包まれ、そのままVE全体に通底する“人の温もり”を描いている作品でとっても満足しました!

 

アニメの時から元々カット割りから間の取り方、距離感での演出が冴えに冴え渡っているのですが(というより京アニ作品の特徴とも言えるかも)今作でも光と影や向き合う方向など、より印象的になるように仕上がっているなぁと感じました。

特にタイムラプス(定点カメラを早回しする事で時間経過表すアレ)をアニメで見たのは初めてかも!思わずおぉ!出来るんだ!?と普通に驚きました。あと窓から庭へのカメラワークとか。

ああいう「実写だと何気ない撮り方をアニメでスムースに表現している」のを観ると技術に感動してしまうんですよね…別スタジオ作品ですが『若おかみは小学生!』のおっこを中心に回るカメラのカットとかもすげぇ!って思ってました。

 

本作はそういった実写では何気ないカットをアニメでやる事によって、感情や表現の豊かさをより高める事に繋がっている思っています。

 

ストーリーもまた素晴らしく、今作は大きく前後2部構成になっているのですが、1部目からすでにめちゃくちゃ感動する話に仕立てているので、それを2本連続で観ると何気にハイカロリーだなと(笑)

VE全体に通底している心の温もりをメインにしながら、ヴァイオレットが最初の頃より表情豊かだったりする成長も見られて嬉しく思いました。アニメだったりを事前に見てるとキャラクターへの親近感というか、あんなに立派に笑えるようになって…なんて親戚気分になってしまいます(笑)

 

今作では上流階級のお嬢様イザベラとのパートとテイラーのパートの2部構成で分かれています。そしてそれらを繋ぐ一本の軸が存在している作りです。

まずイザベラパートでは、自分の生まれや未来に悲観的だった女の子が少し前進する物語と、文章にするとよくある話なのですが、これを丁寧な演出と交流の積み重ねによって厚みのあるストーリーに仕上げています。

特に終盤の手紙の涙腺破壊力は凄まじく、観ていた時に東村アキコ『かくかくしかじか』の葬式の今ちゃんのシーンなんかを思い出すレベルでした。こんな短文でここまで涙を誘うとは!

また、手を取り合うカットもイザベラパートでは象徴的に繰り返し映されますが、“手の表現”そのものもVEでは重要なファクターです。アニメ版でも手を通じてヴァイオレットが人間性を取り戻していく過程を描いていましたが、今作でも髪に触れる時の手・ダンスを踊る際に取り合う手・タイプライターに重なる手といったさまざまな部分で手の重なり=心の交流にクローズアップしていました。

ヴァイオレットの無機物な義手に暖かさが宿る瞬間瞬間を詩的な静けさと共に丁寧に描写する様は、それだけで感動を生むほど。

VEのエピソードらしい静的な豊かさがふんだんに詰め込まれた素晴らしいパートでした。

 

次のテイラーのパートではVEでは珍しく(初めて?)配達人のベネディクトにスポットが当たっています。

彼はアニメでも終始「配達人の仕事は単調で退屈」という態度で一貫しているんですが、今パートではそこにテイラーという新鮮な目線を取り入れることで、ちょっとした視点の切り替えで何気ない日々を新しく感じることができるという尊さが表れています。

かつ、郵便配達=手紙を届ける人が物語自体の配達人も請け負うことで前後で分かれたパート間にある"伝えたい事"を送り届ける役割を担っているあたりもイイな!と思えました。

 

しかしテイラーの声優を担当した悠木碧ちゃんはホントどんどん上手くなってるなぁ…

彼女の声って元々少し鼻にかかったような高めの声でクセがあるんですが、最近は『キノの旅(2018年版)』や『ブギーポップは笑わない』といった作品などではそのクセを完全に失くした声質を作り上げたり、『スパイダーバース』ではクセを抑えめにしつつ女性性は失わないように調整したりと微妙なコントロールが出来るようになっていて、それは今作でも遺憾なく発揮されていると思いました。この引き出しの強みはホントに素晴らしいと思うので人気があるのもうなずけると思います。

 

スピンオフでありながらメインキャラを主役に置かず、あえてゲストキャラクターに焦点を当てる事で単作としての強度を上げ成立させた今作は原作、アニメを知らない人が観ても響くものがあると思います。

 

手紙という人の温もりがこもった文筆から生み出される物語を是非。

 

 

 アニメ版。こっちも一話一話すばらしい出来。配信はネトフリ独占だったハズ。

 

 京アニ作品・スピンオフ作品だが単体でも成立している・演出の妙など類似点が多いと思う作品