新時代のトランスと世代『アバウト・レイ 16歳の決断』
借りてきた映画の予告篇を見て「これは面白そうだ」と思ったので鑑賞。
エル・ファニングがトランスジェンダーの役をやるという点も興味が湧くポイントになりました。
結論から言うとむっちゃくちゃ面白かったです!
近年LGBTを描く映画は多いけど、こんなにトランスジェンダーの何気ない日々での苦悩がスムースにわかり、それが悲しい結末にならない、重い気持ちにならない映画はそうそうないと思います。
過去トランスジェンダーを描いた作品に『ボーイズ・ドント・クライ』がありますが、こちらがあまりにも悲しい結末を迎えていたことと比べると、今作の人物たちの寛容さがうれしくあり、社会の多様性に対する豊かさが広がったんだなぁと感慨深くもなりました。
しかし、学校のトイレではなくわざわざお店の共用トイレまで行くうしろめたさや、街中で若者に絡まれ抵抗した話をした時の同情のされ方のズレなど、その時出た言葉から否応なしに感じとってしまうジェンダーの壁が今でもあることがわかるシーンでは観ているこちらもまだまだジェンダーレスには遠いんだなと思わされます。
説明ではなく演出で見せる語り口の巧さに素直に驚きました!
また、祖父母がレズビアンという所も同性愛者とトランスジェンダーの比較としてわかりやすいコントラストを生み出していて、それ故にその複雑さ・何気ない会話での居心地の悪さなどがより伝わり「性差って自分の知らないところですごく起こってるんだな」とハッとさせられました。
今回そんな難しい役どころを演じたエル・ファニングはもう本当に見事としか言うほかなくて、物語が進んでいくにつれだんだん「年頃の男の子」にしか見えなくなっていく表現力の高さ、その役に対する深い理解力はただ可愛いだけではない、確かな実力を持った演技派女優であることを改めて実感しました。
また、今作のもう一つの特徴として「祖母・母・子の3世代の家族によるドラマ」という部分もあり、原題が『3 generations』というタイトルからも見てとれると思います。むしろこっちの方がメインテーマであるかも。
すぐ口をはさむ祖母と母のやりとり、口うるさい母と思春期の子の会話など、誰しもが感じたことがあるであろう普遍的なものも描かれており、それが時に小気味良いリズムを生むこともあれば、険悪なムードにもなる。
そんな家族の子供が一つの決断を下そうとする時に何を思い、どう動くのか。
親に対する思い・子に対する心配などそれぞれの世代の考え方が交錯し、ぶつかりながらも迎えるラストはとても良い余韻のあるものでした。
多様な視点と豊かな人物たちが織りなすストーリーは、見ているこちらの立場によっても表情を変え、見るたびに発見がある、そして彼・彼女らの未来が良いものであるようにと思いたくなるような、そんな穏やかな気持ちになれる素敵な92分間。
エル・ファニング好きや今作と同じチームが製作している『リトル・ミス・サンシャイン』が好きな方はもちろん、思春期や青春の最中で悩みもがく人や子供に対する接し方で不安になる親にもオススメできる、充実した一本でした。
アバウト・レイ 16歳の決断、観た
— バシ (@bashix4) 2019年1月24日
めっちゃくちゃよかった!
LGBT映画としても素晴らしいし、レズとトランスジェンダーの描き分けとか端的でわかりやすいから、かえって何気ない部分で引っかかりがあるというツラさが見えてくる
また、祖母と母と息子の考え方から来るすれ違いのドラマも超よかった! pic.twitter.com/S4p2Lc57lr
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時代に受容されなかった悲しきトランス映画