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一億総オタク化時代の映画『ハケンアニメ』

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はいどうもです

つい先日『ハケンアニメ』を観てきたんですが、どーーーーーうにもモヤるので久しぶりに感想書きます!

 

とりあえず予告置いときますね

 


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まず「お仕事映画」として面白かったと思います

1クールのオリジナルアニメ企画に大抜擢された新人監督・斎藤瞳が、敏腕プロデューサー・行城や世間の評価に振り回されながら天才監督と謳われる王子千晴と”覇権”を獲るシノギを削る

そこに制作、作監、編集などのスタッフとの擦り合わせをしながら一本の作品を仕上げていく、その過程を覗ける物として「知らない世界の一端を知る」ことが面白いし、苦悩し、時には対立しながらも完成へと漕ぎつけ、誰かへ届けと想いを込める、その情熱を疑似体験できる

お仕事映画の面白さをしっかりと踏まえていると思います

 

ハケンアニメ」人物相関図(公式サイトより引用)

 

あと劇中"天才監督"として登場する中村倫也さん演じる王子千晴のキャラクター造詣やエピソードが庵野秀明を彷彿とさせるものばかりだったのも面白かったです(対談の時の反論やファンに対する姿勢、アニメの終盤の構想内容など)

細かいところだとお風呂上がりの体系がちょっとワガママボディだったのも良かったです笑

庵野秀明監督(ウィキペディアより引用)

また、王子監督が劇中制作するアニメ「運命戦線リデルライト」の演出はどことなく幾原邦彦監督を思い出しました(セーラームーン少女革命ウテナ輪るピングドラムやさらざんまい等)
そういった、アニメファンに対するファンサービスも効いていると思いました。

 

劇中アニメのクオリティも高く「サウンドバック 奏の石」のメカデザインには「エウレカセブン」の柳瀬敬之、「リデルライト」の監督にはプリキュアシリーズを手掛ける大塚隆史、制作スタジオも「攻殻機動隊」などのProduction I.Gが担当するだけあり流石の出来栄えでした

ここがイマイチだと覇権を獲れる説得力が一気に落ちるので、なんとも難しいオーダーによく応えられたものだ!とプロの本気を感じました

 

あとはなによりテーマ曲!ジェニーハイの『エクレール』の完成度の高さが素晴らしいと思います!

所謂「アニソン」のように劇中とマッチしている部分が多く、理解度・解像度の高さが歌詞からも伺え「この作品の為に作られた曲」としか思えない仕上がりに「川谷絵音は天才か....いやジェニーハイしてるよ.....」と思いました(ジェニーハイは「天才を超える」という意味)

特に「なんでもない想像がだれかの感動になるまで」という歌詞は白眉すぎて今作で一番の感動ポイントになっているかもしれません笑


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ただ、なぜモヤるのか

それは自分が既に『SHIROBAKO』という作品と出会ってしまっているからだと思います

 

 

dアニメストアより『SHIROBAKO』キャプション引用

 

 

SHIROBAKO』も同様に「アニメの制作現場を描いたアニメ作品」で当時はPAワークスのお仕事シリーズ(Working!や花咲くいろは等)のひとつとして放送されました

そのストーリーのリアルさ、キャラクターのモデルの多さ、また主人公がアニメーターや声優、監督や脚本といった「花形」ではなく、制作進行という全体のハブの様な役割の人間という設定の新鮮さからファンが続出し、アニメ制作会社への就職希望者が続出、中には「SHIROBAKOを理由にしている人は入社させません」と明言する会社も出てくる程の異常事態にまで発展するほどになりました

 

アニメ業界作品は「SHIROBAKO以前・以後」で線引きされたといっても過言ではありません

実際その後「それが声優!」や「ガーリッシュナンバー」「Re:CREATORS」等の作品が放送されていきました

ちなみに今作『ハケンアニメ』で重要な役どころの一端を担う群野葵を演じる高野麻里佳さんは「それが声優!」で初めての準主演を務めています

 

 

ですから自分はてっきり『SHIROBAKO』のような作風だと思い込んでしまったんですね

これが決定的で、どうしても観ている最中に比較してしまうんです(以降SHIROBAKOとの比較が多くなります。ご容赦ください)

それで分かったんです。これ「アニメ制作の映画」じゃなくて「アニメプロデューサーの映画」だと

どういう事かというと、『SHIROBAKO』は全体がチームになって、色んな担当が一致団結する様を見せる、全員野球のような作品だったのに対し、『ハケンアニメ』は監督とプロデューサーが主軸になって覇権を獲りにいく、その駒として各担当がいる、ある種の主従関係”があるような作品に感じてしまった。しかもプロデューサー>監督のような関係性も垣間見えるので(設定上)余計に強化される風に感じるんです

 

これ劇中で白黒つける基準が「視聴率」になっているのもモヤるのに一役買っていて、プロデューサーの言う「届かなければ意味がない」というのは確かにそうなんですが、そこに比重がかけられすぎて「一番見られた作品=一番イイ作品」という尺度になってしまっているので、そんな「一番売れてるラーメンが一番うまいラーメン」みたいな理屈でハケンアニメになるんだっけ?と思ってしまったんですよ

映画内で明確に勝ち負けをわかりやすくする為とか、作劇上の理由はわかるんですが、現実感があまりない。細かいところですが、冒頭「アニメは毎クール50本近く新作が放送されている」と言っておきながら覇権を狙う時間帯が夕方5~6時枠で、いやいやクール50本は深夜帯の所だよね!?と現実との食い違いが起きてしまっているんです

 

 

他には、アニメスタッフに対するリスペクトが足りないんじゃないか、と

主役が監督なので「もっと出番増やせ!」というのは無理からぬ話ではあるのですが、描写としてもうちょっと工夫できるだろうと...

例えば、劇中で神アニメーターとして登場する小野花梨さん演じる並澤和奈というキャラクターがいます

 

映画『ハケンアニメ』より並澤和奈(公式HPより引用)

その彼女の画力を表現する演出として”アニメ雑誌の表紙を線画一発書きで仕上げる"というのがあるんですが、密度がある作画でもなく何より「それはイラストレーターの仕事になっているのでは...?」という点が拭えないんです(というかアニメ表紙で画像検索かければ、アニメーター表紙でも気合の入りようが全然違うのがすぐ分かるんですが)

 

一方のSHIROBAKOはどうかというと、劇中に出てくる神アニメーターに小笠原綸子というキャラクターが居ます

SHIROBAKO」より小笠原綸子

そんな彼女が如何に凄いかを表現するための演出が”それなりに上手い作画に対する修正を、輪郭線を一本引き直す事で済ませる"という物で、しかも目に見えて明らかにクオリティが上がっているんですね。

同じ”神アニメーターの演出方法"ひとつとってもここまでの違いがあるのです

しかもSHIROBAKOは2014年の作品で、アニメでないと出来ない表現でもない分、余計にそう感じてしまいました

 

 

あとは吉岡里帆演じる斎藤瞳監督が薄~く蔓延しているハラスメントにNOと言えるようになる”無名の女性が個人を獲得するまで"の過程や成長なんかも確かに良い話なんですが、行城の理由が発覚したときに「えっじゃあアレもコレも結局必要って事?」という思いが生まれてしまってどうにもスッキリしなかったんですよね...

 

 

他にも細かいところで気になる部分が多く、1クールやるアニメ2本を一個の制作スタジオが兼任?もっと発注先多くないの?とか絶対音混ざるだろ!とか帰り早いな、とかお隣さんとのセキュリティ事情大丈夫?とかサバクってそんなアニメだっけとかとかとか.........

 

 

こんなに細かく気になる部分が出てしまうのは、ひとえに自分が”オタク気質”だからなのだと思います

例えば、実際のオリジナルアニメで事前に話題になるのって「監督×キャラ原案×スタジオ」だったり「監督×脚本×音楽」だったり「プロデューサー×スタジオ×声優」だったりと、スタッフの掛け合わせ(座組み)だったりする場合が多いんですよ

つまりそういう細かい情報の集積に感動したり期待したりする事が特徴のひとつでもあるので、好きであればあるほど細かい部分まで知りたくなってしまうんです

記事タイトルに「一億総オタク化~」と書いたのもそれが理由で、今作はそういった層をターゲットにはしていない作品なのだと、考えるほどに痛感していったのです

 

まぁ結論でいうと「自分が悪い」に尽きるんですがね.......

 

ですから、そこまで深く知らない業界、例えば教育・お役所・救命救急・ホテル・じゃあ私は公認会計士!とかだったらまた違った印象になったかもしれません

なので、十年来のアニオタでない人にはオススメできると思います!笑

 

 

※なぜ川村元気を出したかというと、彼は『君の名は』『天気の子』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?(アニメ版)』などを担当しており、かつ一定のクオリティと集客を見込める”キレイな作品”を作れるプロデューサーというイメージがある為

 

比較で出したSHIROBAKOの劇場版。今作ではその名の通り劇場映画を作る話になっています。劇中で経過してる時間が実際のTVラスト~制作発表の期間と合っているという設定の細かさよ...