”不確かさ”の物語『バーニング 劇場版』
早稲田松竹で鑑賞したけど筆不精がたたって随分遅くなってしまった…DVDも出たから改めて観てみたりしてみましたよ!今酔っている!!
というか公開された時TOHOシャンテだけでしかやらなかったのマジ許すまじ
今作は主人公であるジョンスの認識の崩壊の物語だと思っていて、全編通して“ジョンスから見えていた”であろう出来事で進んでいくので、真実というか事実という自分にとって確かなものがいかに脆く崩れ去るのかという解釈になされていると思いました。
原作である村上春樹の『納屋を焼く』では同じ出来事が起きているのに、受け取る印象が全く違う。個人的に村上春樹の小説は“不確かさを肯定する”ものだと思っていて、諦めというか、そういうものだよね人生って、というような達観した視点で展開している事が多いと考えていて、原作も御多分に漏れずなんですが、それがイ・チャンドン監督の手にかかるとこんなにも不安定な物語になるのかと!同じ作品だとは思えないほどの内容になっています。
改めて見返して思うのは、前半と後半、特にダンスのシーン以前以降で明確に分かれているように作られているなぁという事。
それまでの時間がジョンスにとって確かに感じられるものであったからこそ、物語が進むにつれ、自分が信じていたものは何だったのか、何をもってして真実を判断しているのかがだんだんわからなくなってくる。そしてそこには明確に格差というどうしようもない境界、乗り越える方法すら曖昧な境界が無情にも横たわっているので、どうしようもなさが追い打ちをかける。初回で観たときはその“どうにならなさ”という部分に自分を重ねてしまってひどく落ち込んでしまったのを覚えています。
ジョンスは踏み外してもいないし大きな過ちも犯していない。むしろ周りの変化の方が大きいのに自分の認識が狂っていく。見えざる“何か“があるような感覚。イ・チャンドン監督作にはしばしば”信仰“というテーマが関わってくるんですが、今作でもそれは如実に出ていると思います。というより信仰こそ詰めていけば不確かさと紙一重なものだと思うので、寡作ながら(1997〜2019までで全7作)ずっと通底しているテーマがあるなぁと思いました。
ちなみに今作は原作よりも主人公の設定を若くしているんですが、それによって分断の大きさがより強調されるようになっていると思います。無力感が割増されるというか、現時点での覆らない事実というものがよりハッキリとするので。
あとはもう演じる方々の演技もすごい。現代劇として撮っているので、他国ながらもこういう人いる!こういう感覚あった!をありありと見せつけてくる。だから鑑賞後がしんどいというのがあるんですが…久しぶりに揺さぶられるような作品に出会えた、イ・チャンドンという監督を信用してよかったなぁと思いました。
直近で思い出されるのは『スリービルボード』のような感覚だったので、そういった作品が好きな人には是非オススメします!逆にオープンエンディング作品が苦手な人には合わないかもしれない…現に家で観てた時には奥さん寝ちゃってたので(笑)
『バーニング劇場版』観た
— バシ (@bashix4) 2019年8月2日
監督はなんちゅうモンを手土産にさせてくれたんや…
徹底して描かれる主観による“わからなさ”の恐ろしさ
かしこい人間が優位に生きられる世界の残酷さ。そして「そちら側」にはなれない物の無力、無常感
劇中で起こる事には自分との接点はまったくないハズなのにツラくなった pic.twitter.com/85S0agj6ni
原作収録の短編集。『納屋を焼く』は50ページ程度なのでサクッと読めますよ!
予習で観たイ・チャンドン監督作。とんでもない傑作!
信仰に焦点を当てた同監督作品。ちなみに公開年度のライムスター宇多丸さん選出ベスト1!
これも同監督作。予告の時点でとんでもなさがぷんなんだよなぁ…