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”真実”の物語『アメリカン・アニマルズ』

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大学生4人組が起こした12億円の画集強奪事件の実話モノ。

早くも2019年ベストの呼び声高い本作。しかし公開期間が短かったので期待値ガン上げで観てきました!

 


5/17(金)公開『アメリカン・アニマルズ』120秒本予告

 

いやー…これは確かに2019年ベスト級の出来でした。期待値を余裕で超えてきました。

今作、まず冒頭から一味違うな、と思わせてくれるのは「これは真実に基づく物語ではない。真実の物語である」って出る所。もうこれだけで今作の“よくある実話モノとは訳が違うぞ”って宣言を高らかにしていて、実際その通りになっていく、まさに有言実行。

しかもそれをドキュメンタリックな手法や個々の証言で切り替わる画面などのテクニックや語り口を駆使して展開していくので観ていてすっごい楽しいんですよ!

また映画の内容として出てくる計画の杜撰さとかも含めて『アイ・トーニャ』っぽいなーなんて思いながら観ていましたが今作はその発展系のようなカンジだと思います。

だから犯罪計画が実行される所の緊張感がハンパなくって観ているこっちもドキドキしてくる!計画している時はものすごくスタイリッシュに上手くいってるのに…机上の空論とはこのことですね。

 

主役4人組もまた良くて、スペンサーの人を遠ざけてるけど一目置かれたいっていう歪な憧れ、ウォーレンの他人の評価や自分の人生を見返してやりたいという思い、エリックの自分の知識を使って周りを驚かせたいという欲望、チャズのリスクを負わずに大金と経験を得られるならという軽い気持ち…それらが演技によって表現されているのが見事!特にスペンサー役のバリー・コーガンの家族でご飯食べてる時の心象の変化であるとか、チャズ役のブレイク・ジェンナーの泣きながらキレる所とか素晴らしかったです。

 

でも今作、本題はその強盗計画ではなくてそこに至る過程、つまり「何者かになりたい」「今の自分を変えたい」という青春特有の妄想が暴走して錯綜した結果ボーダーを越境してしまう話だと思うんですよ。だから強盗事件は(実話だけど)所謂マクガフィンでしかなくて、『ソーシャルネットワーク』的に一発当てるんでもいいし、クラスの人気者になる程度の事でも成立するんですよ。

 

主人公たちはみんな「何かがあれば自分自身や環境、現状が変わって新しい世界へ行けるんじゃあないか」と思っています。それは大なり小なり誰もが一度は考えたことがある事。大人になって振り返ればそんな事は無いんですが、学生当時は漠然と思ってしまうもの。

それがボランティアであったり署名運動であったりする、プラスになるような働きかけだったら良かったものの強盗というある種の度胸をつける的な間違った方向に進んでいってしまった。

彼らは一線を越えても何者にはなれなかった。本能のまま動く動物にしかならなかった。

しかも今作のインタビューで実際の主人公たち(犯人)は「誰か止めるだろうと思った」「どこかで上手くいかなくなって中止になると思ってた」なんていう心持ちだったというから驚き。キッカケはなんでもよかったんですよね。

だから今作を笑う事は出来ないし、自分だって間違った方向に進んでいれば同じことが起こりえたかもしれない。

後味がオーシャンズシリーズやレザボアドッグスの様にいかないのはこの苦ーい現実をそれこそドキュメンタリー映画の様にしっかり描いているからだと思いますし、それによって単なるケイパー物の枠に収まらない作品になっていると思います。

 

青春のくすぶりと綱渡りのエンターテイメントを見事に融合させた、非常によく出来た作品でした!オススメです!

 

 

 

 今作を観て思い出した作品。ドキュメンタリックな撮り方とか計画の杜撰さとか。